西洋科学から見たインド風水ヴァーストゥ

北枕は睡眠のために好ましいという科学的根拠はない


 最近、放牧中の牛やシカも地磁気を感知している可能性が高いことがわかってきた。その理由は彼らの多くが地磁気の北や南を向いているから。もしかしたら、北を向くことと消化・休息、南を向くことと睡眠という関係が牛やシカにはあるのかもしれない。少なくともその方位が彼らにとって心地よい方位であることは間違いない。同じ大型哺乳動物である人間にも同じことがあてはまってもおかしくはない。

 インド風水ヴァーストゥの原則である「北に頭を向けて寝てはいけない」、「南を向いて食事をしてはいけない」とこれらは合致する。いずれにせよ、北枕は睡眠のために好ましいという科学的根拠はない。更なる研究が必要。


睡眠障害、うつ、ストレス・作業効率の改善に効果がある


 適切な太陽光など光が睡眠その他に好ましいことは科学的根拠がある。

 光は視覚以外にも、人間の中枢神経系、自律神経系、ホルモン分泌系、運動系の広い範囲にわたる反応系に影響を与えている。このため光と適切につきあうことは例えば睡眠障害やうつ対策、さらにはストレスや作業効率改善に有効。

 最近の研究で、朝起床して太陽光を最初に浴びた時刻に応じて夜に眠気が出現し、自然に眠くなる時刻が決定されることがわかっている。朝の起床時に充分な太陽光を浴びなかったり、暗い部屋で昼過ぎまで眠っていると、その日の入眠時刻が遅くなる。また、夕方から夜の時間帯に強い光を浴びると、昼の時間が延長することになり、休息への準備が遅れ、結果的に入眠時刻が遅れることになる。これによる代表的な病気がいわゆる「概日リズム睡眠障害」であり、最悪の場合、うつ病を発症する。

 夕方から夜に強い光を浴びるなど不適切なタイミングで不適切な光を浴びると、“余分な緊張“が発生し、ストレスや作業効率、睡眠にまで影響を与える。


紫外線のデメリットを可能な限り排除しつつ、メリットを享受する


 紫外線は、季節や時刻、天候、オゾン層などにより紫外線の絶対量や日射量に占める割合は変化する。時刻別に見ると、正午前後、正確には各地区で太陽が最も高くなるとき(南中時)に紫外線は最も強くなる。

 私たちが浴びる紫外線は、直接太陽から届くもの(直達光)だけでなく、空気中で散乱して届くもの(散乱光)、さらに、地面等で反射して届くもの(反射光)がある。紫外線は、可視光線と同じように、建物や衣類などでその大部分が遮断されるが、日中は日陰でも明るいように、大気中での散乱も相当に大きいことがわかっている。弱い紫外線でも長い時間浴びた場合の紫外線量は、強い紫外線を短時間浴びた場合と同じになることもあるので注意が必要。

 ビタミンD不足になると、カルシウム蓄積が減少して骨が弱くなり、骨折の危険性も増し、骨粗鬆症の原因のひとつとも考えられている。

 体の中でもビタミンDは合成される。その場所は皮膚であり、合成には紫外線の助けが必要となる。ビタミンDの摂取は、まず食事からが基本であるが、食事から摂取するビタミンDだけでは不足気味であり、日光による合成もうまく利用することが必要。とはいっても日焼けをするほどの「日光浴」が必要なのではなく、両手の甲くらいの面積が15分間日光にあたる程度、または日陰で30分間くらい過ごす程度で、食品から平均的に摂取されるビタミンDとあわせて十分なビタミンDが供給されるものと思われる。

 紫外線が増加すると、人へのさまざまな悪影響がある。多くの研究により、紫外線を浴びすぎると人の健康に影響があることがわかってきた。急性の症状については、(1)日焼け(サンバーン、サンタン)、(2)紫外線角膜炎(雪目)、(3)免疫機能低下。慢性の皮膚の症状については、(1)シワ( 菱形皮膚)、(2)シミ、日光黒子、(3)良性腫瘍、(4)前がん症(日光角化症、悪性黒子)、(5)皮膚がん。慢性の目の症状については、(1)白内障、(2)翼状片。特に女性にとって気になる症状が並んでいることがわかる。

 慢性傷害については、長年日光を浴び続けていると、皮膚のシミやしわ、ときには良性、悪性の腫瘍が現れてくる。お年寄りの顔や手の甲に見られるこれらの変化は、一般に加齢による老化と思われがちだが、実は紫外線による慢性傷害の結果であり、光老化は加齢による自然の老化とは異なり、適切な紫外線防御対策により防ぐことができるもの。

 日焼けしてからローションなどで肌の手入れをすることは、皮膚の老化を防ぐなどの長期的な予防効果は少ないと考えられる。長期的な健康への悪影響予防のためには、紫外線の浴びすぎを防止することが重要。

 季節や時刻を考えて戸外での活動を行えば、紫外線へのばく露を大幅に少なくすることが可能になる。それでは室内だと安心かというとかならずしもそうではない。理由は、紫外線は直接太陽から届くものだけでなく、空気中で散乱して届くもの、さらに、地面等で反射して届くものがあるから。室内でも特に日本人が信仰しているいわゆる南向きの日当たりのいい住宅では、それ以外に比べ大幅に紫外線量は増える。しかも紫外線は毎日蓄積される。しかし、家の中でサングラスをかける、日焼け止めを使うなどという紫外線防止対策をすることは実際問題難しい。このため間取りやインテリアを変えるのがよい。

インド風水ヴァーストゥは現代にマッチしている


 インド風水ヴァーストゥでは、立地、敷地、間取り、インテリア、生活行動の全てで朝の日光を取り入れる原則がある。一例を挙げれば、いわゆる北枕を否定しつつ、朝起き上がるときに顔が北か東を向いていることが好ましい、つまり最初に朝日を浴びるという原則がある。他方、南から西にかけての光をなるべく少なくする、つまり夕日を浴びないという原則もある。

 インド風水ヴァーストゥで重視する朝の日光は、睡眠障害、うつ、ストレス・作業効率の改善に効果があるのみならず、骨粗鬆症や筋肉の強化にも作用するビタミンDの合成にも役立っている(ただしビタミンDの合成は15分から30分程度で十分)。一方で、朝は紫外線量が少ない時間帯でもあり、このことは、日焼け、しわ、シミ、良性・悪性の腫瘍や白内障等の紫外線の悪影響を抑制できることを意味している。

 つまり、朝の日光を多く取り入れ、日中から夕方にかけての日光を抑制するインド風水ヴァースツの基本原則は、太陽光のデメリットを可能な限り排除しつつ、メリットを享受するという非常に合理的なものであり、現代科学を先取りしていたといっても過言ではない。